甲状腺について
耳鼻咽喉科の専門領域は実に幅広く、耳や鼻にとどまらず、頭頚部、首(鎖骨から上)と、目と脳以外の部位が専門領域となっています。ここには聴覚や嗅覚、味覚、知覚といった感覚機能、さらに食べる、話すなどの機能は人間にとって非常に重要な機能を担っている器官が集まっています。
のど元付近にある甲状腺もその一つであり、耳鼻咽喉科が担う領域に含まれています。つまり甲状腺に関しても耳鼻咽喉科の医師が、専門的な知識と技術を持って適切な診療を行い、必要に応じて他の診療科との連携や紹介を的確に行っていきます。
甲状腺は、首の前方、男性の場合ですと「のどぼとけ」のすぐ下に位置し、重さは15~20グラムで蝶が羽を広げたような形をした、小さな臓器です。この甲状腺が果たす役割は重要で、新陳代謝をコントロールする「甲状腺ホルモン」を分泌するというものです。
新陳代謝とは、古くなった細胞を新しいものに作り替えたり、脂肪を燃焼させてエネルギーを作り出したりする働きをすることをいいます。さらに脈拍数や体温、自律神経の働きを調節し、エネルギーの消費を一定に保つなどの機能もあります。これらは、子どもの成長や発達、大人の脳の働きなど、様々な人間の体の機能を正常に維持するために欠かせないものです。
甲状腺ホルモンは、全身の代謝を高めるホルモンですので、たとえばホルモンの分泌が過剰になると脈が速くなり体温も上昇して汗をかくようになります。反対にホルモンの分泌が不足すると、脈が遅くなり体温は低下して活気がなくなるなどの症状が出ます。
甲状腺ホルモンの分泌が過剰である場合には、バセドウ病などの甲状腺機能亢進症が、甲状腺ホルモンの分泌が不足している場合は、橋本病などの甲状腺機能低下症が引き起こされます。以下のような症状がみられましたら、お早めにご相談ください。
甲状腺ホルモンの分泌機能が過剰になると現れる症状例(甲状腺機能亢進症)
- 甲状腺が腫れる
- 暑がりになる
- 汗の量が多くなる
- 動悸がする
- 食欲は増すが、体重は減少する
- イライラする、落ち着きがなくなる
- 手が震える
- 軟便になる
- 眼球が飛び出して見える
- 月経が減少する など
甲状腺機能亢進症
甲状腺機能亢進症とは、甲状腺のホルモン分泌機能が過剰に高まることで全身に上記のような症状が引き起こされる病気のことです。甲状腺機能が高まる原因としては、バセドウ病のほか、甲状腺の腫瘍、甲状腺炎など様々なものがあり、これらの病気を総称して甲状腺機能亢進症といいます。
甲状腺ホルモンは、脳の下垂体という部分から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)によってコントロールされています。甲状腺ホルモンが不足しているとTSHが分泌され、甲状腺を刺激、逆に甲状腺ホルモンが増えるとTSHの分泌が抑制されます。
甲状腺機能亢進症の代表的なもののひとつであるバセドウ病では、自己免疫に問題が生じ、TSHに似た抗体が作られてしまうことで、甲状腺が常に刺激され続けます。これによって、血中の甲状腺ホルモンの働きが過剰になり、同疾患が引き起こされると考えられています。女性の患者様が男性の約4倍と、比較的女性に多い病気で、30代での発症が多くなっています。
甲状腺ホルモンの分泌機能が異常に低下すると現れる症状例(甲状腺機能低下症)
- 甲状腺が腫れる
- 寒がりになる
- 皮膚が乾燥する
- 脈が少なくなる(徐脈)
- 食欲不振になるが、体重は増加する
- やる気がなくなる、眠気に襲われる
- 髪の毛が抜ける
- 貧血になる
- 便秘になる
- 月経が多くなる など
甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症は、血中の甲状腺ホルモンの作用が異常に低下し、代謝が落ちた状態になってしまうことで、上記のような症状が引き起こされる病気のことです。
代表的なものに「橋本病」があります。これも自己免疫に問題が生じるもので、甲状腺機能低下症では、免疫システムが甲状腺を攻撃してしまうことなどで甲状腺に炎症が起き、その働きが弱まることが原因と考えられています。
甲状腺機能低下症は、若年から40代以降まで、幅広い世代で発症がみられる病気です。男女比では、女性の患者様が男性の約20倍と、圧倒的に女性に多くなっています。女性の場合、流産や早産、お子様の小児期の成長や発達の遅れにもつながってしまう場合があります。また症状が強くなると意識障害を起こすこともありますので、注意が必要です。
甲状腺がんについて
甲状腺の病気としては他に、甲状腺がんがあります。甲状腺に発生する腫瘍は、そのほとんどが良性と言われています。まれに悪性腫瘍(がん)の場合もありますが、甲状腺がんの約9割は甲状腺乳頭がんと呼ばれるものです。ただ他の臓器のがんに比べ悪性度が低く、進行もゆっくりであることがわかっています。
甲状腺の病気の検査について
甲状腺の病気の検査では、丁寧に問診、触診を行います。さらに基本としては血液検査を行い、血中の甲状腺ホルモンおよびTSHを測定し、さらに病気の原因となる「甲状腺に対する抗体の量も調べます。他にコレステロール値や肝機能に関わる数値、貧血の度合いなど、甲状腺ホルモンの異常によって影響を受けるものに関しての検査も併せて行います。
もうひとつの基本的検査としては、超音波(エコー)による検査があります。エコーでは、甲状腺の腫れやしこりの有無、形状などをみていきます。腫瘍が疑われる場合は、注射器を用いて細胞を少し採取し(穿刺吸引細胞診)、病理検査により良悪性鑑別を調べる場合もあります。
甲状腺の病気の治療について
甲状腺機能亢進症や甲状腺機能低下症の治療では、どちらも薬による治療が中心となります。甲状腺機能亢進症であるバセドウ病の場合は、甲状腺ホルモンを抑える薬を、甲状腺機能低下症である橋本病の場合は、甲状腺ホルモンを合成した薬を服用することで不足した甲状腺ホルモンを補っていきます。
バセドウ病に関し、薬物治療で症状が改善されない場合は、アイソトープ(放射性ヨウ素)を使用して甲状腺の機能を低下させる、手術によって甲状腺の一部または全てを切り取る、などの治療を行う場合もあります。
甲状腺がんの主な治療方法としては、手術、放射性ヨウ素内用療法、放射線外照射療法、甲状腺ホルモン剤によるTSH抑制療法などの様々な薬物療法が挙げられます。
手術など、より専門的な治療が必要と判断した場合は、速やかに当院が提携している病院をご紹介いたします。
頭頸部腫瘍とは
頭頚部とは、顔面から頸部に至る領域を言います。具体的には、頭蓋底部から下、鎖骨より上の顔や首の範囲になります。ちなみに脳、眼の部分は除きます。
この頭頚部に発生する腫瘍が頭頚部腫瘍になりますが、一口に腫瘍と言いましても良性と悪性に分けられます。気を付けなくてはならないのは悪性腫瘍(がん)です。
頭頚部腫瘍の初期の診察、採血検査(腫瘍マーカーなど)、超音波検査、鼻腔、咽頭、喉頭内視鏡検査、CT撮影、注射器により穿刺吸引細胞診検査は当院で行います。
粉瘤、いぼ、乳頭腫、肉芽、粘液嚢胞、口腔良性腫瘍などの良性腫瘍は当院で局所麻酔下により日帰り手術として摘出術と病理検査は可能です。
なお診察の結果、入院加療、高度な医療機器による検査や治療が必要と医師が判断した場合は、当院と医療連携している協力医療機関を紹介いたします。
主な頭頸部腫瘍
良性腫瘍
粉瘤、いぼ、乳頭腫、肉芽、粘液嚢胞、正中頸のう胞、側頸のう胞、耳下腺腫瘍、顎下腺腫瘍、甲状腺腫瘍、副咽頭間隙腫瘍、がま腫 など
悪性腫瘍
喉頭がん、咽頭がん(上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん)、口腔がん(舌がん)、上顎洞がん、耳下腺がん、甲状腺がん、聴覚器がん(中耳がん、外耳道がん) など
頭頚部がんの特徴について
悪性腫瘍の頭頚部がんは中高年の男性に発症しやすいとされ、近年の高齢化もあって患者様は年々増加傾向にあります。リスク因子としては、喫煙や飲酒のほか、ウイルス(EBウイルス、ヒトパピローマウイルス)も挙げられます。
この場合、発声、咀嚼、嚥下を行う部位(口腔、咽頭、喉頭)で発症しやすいです。さらに食道、肺、他の頭頚部にがんが重複、多発することも少なくないです。
なお同じ頭頚部がんでも、鼻・副鼻腔、唾液腺、頸部(甲状腺)で発生するがんは、リスク因子など上記の特徴とは異なるので、上記の特徴は当てはまりません。
いずれにしましても、頭頚部がんを発症している9割以上の患者様は扁平上皮がんです。治療をする場合は、手術療法をはじめ、放射線療法や薬物療法を組み合わせていきます。